第33回QLCセミナー
講師:井澤公一 氏(大阪大学大学院基礎工学研究科)
日時:2022年10月12日(水)14:00~
場所:名古屋大学(東山キャンパス)理学館B館 B5講義室、およびZoom を併用したハイブリット開催
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タイトル:トロイダル金属における非線形輸送現象
アブストラクト:
時間反転対称性および空間反転対称性がともに破れた系では,電場(磁場)により磁化(電気分極)を誘起する電気磁気効果のような,入力と出力の時間・空間反転の偶奇性の異なる非対角応答(交差相関応答)が期待される.たとえば,時間・空間反転対称性の破れた磁気トロイダル双極子モーメントが強的に秩序した系においては,トロイダルモーメントに対して垂直に印加した電場(磁場)により,両者に対して垂直方向に磁化(電気分極)が誘起される.このような応答は,マルチフェロイクス分野を中心に,主に絶縁体を対象として精力的に研究されてきた.これに対して,最近,強トロイダル秩序を示す金属において,電流により磁化が誘起されるという金属特有の非対角応答の可能性が理論的に提案されており[1],実際,すでに反強磁性金属UNi4Bにおいて実験的に確認されている[2].拡張多極子の概念によれば,UNi4Bにおける反強磁性秩序は強トロイダル秩序とみなすことができるため,観測された電流誘起磁化はネール温度以下で発現する磁気トロイダルモーメントに由来すると考えられる.興味深いことに,このような強トロイダル金属では,電流誘起磁化だけでなく,それに由来するゼロ磁場Hall効果や磁気トロイダルモーメントに由来する非相反伝導といった非線形輸送現象の可能性が提案されている[1,3].そこで,我々は,直流電流および交流電流を組み合わせた独自の実験により,それらの非線形輸送現象の有無,およびその詳細を調べた.
本セミナーでは,磁気トロイダル物質であるUNi4BおよびHoAgGeの非線形輸送の実験結果を紹介する.ここで,HoAgGeは低温で2つの異なる磁気構造をもつ反強磁性金属で,UNi4Bと同様,秩序相で磁気トロイダル双極子が活性化していると考えられている[4].まず,UNi4Bにおいて観測に成功したゼロ磁場Hall効果,および非相反伝導の詳細を示し,それらが磁気トロイダルモーメントに由来する可能性が高いことを述べる[5].その一方で,得られた結果が理論から予測される振る舞いとは単純には一致しない点があることも述べる.また, HoAgGeに見られる2つの秩序相での非線形輸送の結果を示し,UNi4Bの結果もあわせて,それぞれの相にみられるゼロ磁場Hall効果の共通点,相違点を示し,磁気トロイダル秩序構造との関連を議論する.
[2] H. Saito, et al., J. Phys. Soc. Jpn. 87, 033702 (2018).
[3] SW. Cheong, et al., npj Quant. Mater. 3, 19 (2018).
[4] K. Zhao, et al., Science 367, 1218 (2020).
[5] K. Ota, et al., arXiv:2205.05555.
担当:紺谷浩(名古屋大)