第6回QLCセミナー
講師:北村 想太 氏(東京大学 工学系研究科物理工学専攻)
日時:2019年10月30日(水) 15:00~ E棟6番講義室
場所:茨城大学水戸キャンパス
タイトル:空間反転対称性の破れた系における非相反トンネリング現象
アブストラクト:
固体が電気を流す/流さないといった性質は量子力学が本質を担う現象の一つである。中でも、絶縁体に強い電場を印加した際に起こる降伏現象は、量子力学的なトンネリングによって生じる、電子の波動としての側面を色濃く反映した非摂動効果であり、古くから幅広い文脈で研究されてきた。本セミナーでは、空間反転対称性の破れた絶縁体でのトンネリング現象を考え、その幾何学的な側面および帰結として生じる非相反性について議論する[1]。
ここでいう非相反性とは、電場を右向きに印加したときと左向きに印加したときとでトンネリング確率が異なる値を取ることを指す。このような特性は半導体のpn接合等にも見られるが、バルクの結晶でこうした非対称性を引き起こせるかどうかは自明ではない。たとえ結晶が空間反転対称性を破っていたとしても、時間反転対称性がある限りはバンド分散に非対称性は現れないためである。トンネリング確率を与える公式として広く知られるLandau-Zener公式は系のエネルギー分散のみで特徴づけられており、一見非相反性は生じ得ないように思われる。
セミナーではまずバンド絶縁体のトンネリング確率の理論がどのように発展してきたのかを概説し、特に幾何学位相に起因する効果について詳説する。続けてその物理的意味を、近年盛んに研究が行われているシフトカレントと呼ばれる非線形光学効果に絡めて議論し、トンネリング確率の非相反性が波動関数の幾何学的な性質を通して生じることを明らかにする。
[1] S. Kitamura, N. Nagaosa, and T. Morimoto, arXiv:1908.00819.担当:佐藤正寛(茨城大)