QLCセミナー

第26回QLCセミナー

講師:森 貴司 氏(理化学研究所 創発物性科学研究センター)
日時:2021年8月20日(金) 15:00~ Zoomにて開催
場所:茨城大学(水戸キャンパス)
※参加希望の方はこちらの登録用サイトから登録をお願いします。
※8月20日正午12:00(日本時間)までに登録した方にセミナー当日にZoomの情報をお送りします。

タイトル:開放量子多体系の緩和時間の固有値解析

アブストラクト:
 開放量子多体系のダイナミクスはLiouville演算子によって生成される。Liouville演算子の固有値の実部は対応する固有モードの減衰率を与えるため、非ゼロの固有値のうち最も0に近い固有値の実部(Liouvillianギャップ)の逆数が最大緩和時間を与えると考えられてきた。しかし、Liouvillianギャップから求められる最大緩和時間よりも、実際に時間発展方程式を解くことで得られる緩和時間の方がずっと長い例が以前から報告されていた[1]。この問題をギャップ不整合問題という。
 私たちは、Liouville演算子の固有値だけでなく、右固有ベクトルと左固有ベクトルの構造が開放量子多体系の緩和時間に影響することを見出した[2](同様の議論は芳賀らの論文[3]でもなされている)。特に、右固有ベクトルと左固有ベクトルのオーバーラップが小さい時に緩和の遅れが生じ、そのことがギャップ不整合問題を解く鍵となる。私たちはLiouville演算子の固有値解析から緩和時間を与える新しい公式を導き、それが実際の開放量子多体系の緩和時間と整合することを数値的に確認した。
 また、このようなギャップ不整合問題は開放量子系に限らず、古典Markov過程でも一般的に生じる問題である。そこで、古典系における準安定状態の緩和時間の解析に私たちの新しい公式を適用した結果も紹介する[4]。

[1] M. Znidaric, Phys. Rev. E 92, 042143 (2015).
[2] T. Mori and T. Shirai, Phys. Rev. Lett. 125, 230604 (2020).
[3] T. Haga, M. Nakagawa, R. Hamazaki, and M. Ueda, arXiv:2005.00824.
[4] T. Mori, arXiv: 2102.05796.

担当:佐藤正寛(茨城大)