QLC若手コロキウム

11回QLC若手コロキウム

日時:2023年10月6日(金) 13:30~14:30
講演者:QLC2023 Young Researcher Award、受賞者2名

成塚政裕(理化学研究所)
西村俊亮(東京大学大学院理学系研究科)

※Zoomによるオンライン開催
登録用サイトへ登録した方に、開催当日までに会議IDをお送りします。

1)13:30~14:00
講演者:成塚政裕 (理化学研究所創発物性科学研究センター)
タイトル:グラフェン上にひねり積層した単層NbSe2におけるキラル結晶超伝導
アブストラクト:
 空間反転対称性が破れた結晶におけるクーパー対のパリティ混成など、対称性の破れに関連した特異な超伝導状態が注目されている[1]。この対称性の破れの兆候は、基本的に電子状態に現れるはずであるが、候補物質の超伝導転移温度の低さや劈開性の悪さから超伝導状態の分光学的な実験研究は困難であった。最近、我々は、分子線エピタキシー法を用いて超伝導単層NbSe2をグラフェン上に作製すると積層界面で自然にひねりが生じ、反転対称性と鏡映対称性の両方が破れた、キラルな結晶が実現することを見出した。この原子層ひねり超伝導体は、容易に平坦かつ清浄な表面が得られることから、キラル性が超伝導に与える影響を分光学的に調べる際に適した系となる。今回、分光イメージング走査トンネル顕微鏡を用いて、NbSe2やグラフェンの格子ベクトル、それらのモアレとは整合しない波数ベクトルを持つボゴリューボフ準粒子の干渉パターンの観測に成功したので、紹介したい。この結果は、このキラル結晶超伝導体において、超伝導状態が原子のポテンシャル配置と整合しない独自の形態にひねられることを示唆する。

[1] Y. Yanase and S. Fujimoto, Non-Centrosymmetric Superconductors, eds. E. Bauer and M. Sigrist (Springer) Chapter 6 (2012).

2)14:00-14:30
講演者:西村俊亮(東京大学大学院理学系研究科)
タイトル:完全配向NV中心量子センサによる超伝導量子渦の広視野定量的磁気イメージング
アブストラクト:
 超伝導量子渦は古くから興味を持たれてきた対象である。特に、超伝導の本質的性質が渦の磁束の量子化に反映されるため、ペアリング対称性が特異なp波超伝導では、渦度に対応する磁束の半整数量子化が提案されている。従って、量子渦周囲の磁束密度分布が定量的に測定できるプローブは広範な超伝導体の渦状態の検証に有用である。さまざまな手法が量子渦の測定に適用されてきたが、局所的な磁束密度分布を定量的に測定できる手法は多くない。
 近年、ダイヤモンド中の点欠陥であるNV中心を使用する磁場センシングが注目されている。NV中心は窒素不純物と空孔からなる構造をもち、この周囲に局在する電子スピンは光学的に量子状態を観測可能なスピン1 量子系として振る舞う。このスピンのZeeman 効果を観測することによって磁場をセンシングすることができる。NV中心は室温でも長いコヒーレンス(>10ms) をもち、磁場に対する定量性も高い。この、NV 中心は微小な超伝導量子干渉計(SQUID) と同様、走査型顕微鏡(SPM) のプローブとして有力であるが、走査型の他に光学的な広視野イメージング顕微手法[1] も存在する。これはダイヤモンド基板表面に光学的に分離できないほど密に(典型的には10000個/μm2)NV 中心が集まるアンサンブルNV中心試料とイメージセンサを組み合わせることで空間的に信号を取得できる。この方法は高いスループットと超高圧などの極限環境に適用できるポテンシャル[2] を併せ持つ。
 本研究ではこの後者の方法を採用する。本手法はこれまで、超伝導量子渦に対して先行研究による適用例[3, 4]が存在するが、いずれもSPM による磁場イメージング測定結果[5] の確度に到達することは困難であった。この問題は、主に量子渦の測定は比較的弱い磁場中で行われることに起因し、低磁場領域ではNV 中心の歪項[6] の空間不均一性と、一般には4 軸方向をランダムに有するNV 中心からの信号のオーバーラップにより、定量的に磁場を推定することが困難になる。これらの問題を解決するため、我々はダイヤモンド基板の面直方向に完全配向したNV アンサンブルセンサ[7] と、ゼロ磁場における参照測定による歪項の分布の除去を行う解析を量子渦測定に適用し、高温超伝導体薄膜に侵入する量子渦の定量的イメージングに成功した。本講演では、NV中心のセンサとしての動作原理を含め、詳細な結果と展望について議論する。

[1] S. C. Scholten, et al., J. Appl. Phys. 130, 150902 (2021).
[2] S. Hsieh, et al., Science 366, 1349 (2019).
[3] Y. Schlussel, et al., Phys. Rev. Appl. 10, 034032 (2018).
[4] S. E. Lillie, et al., Nano Letters 20, 1855 (2020).
[5] L. Thiel, et al., Nat. Nanotechnol. 11, 677 (2016).
[6] L. Rondin, et al., Rep. Prog. Phys. 77, 056503 (2014).
[7] T. Tsuji, et al., Diam. Relat. Mater. 123, 108840 (2022).

担当:和達大樹(兵庫県立大学)