QLC若手コロキウム

回QLC若手コロキウム

日時:2021年9月27日(月)13:00~15:00
講演者:
山田武見(東京理科大)、古谷峻介(茨城大)、Rico POHLE(東大)、
劉子揚(名大)、秋葉俊宏(北大)、呉紘丞(東北大)、計6名

※Zoomによるオンライン開催
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1) 13:00-13:20
講演者:山田武見(東京理科大学理学部)
タイトル:非磁性FeSeにおける多極子ネマティック状態の理論研究
アブストラクト:
 鉄系超伝導体FeSeは構造相転移温度以下で、並進対称性を保ったまま回転対称性が破れた非磁性のネマティック状態を示し[1]、電子バンドのdxz, dyz軌道分裂や軌道揺らぎの発達から、電子的な起源であることが示唆され、注目を集めている。
 最近、初期電荷分布を調節したDFT+U 計算[2]において、通常のdxz, dyz軌道分裂に加えて、dxy軌道が混成した新しいネマティック状態が基底状態として得られており、特にM 点付近のバンド構造は、ARPES 実験の特徴[3]と一致することから興味深い。
 本研究では、DFT+U 法と多極子モーメントの計算から、FeSe の正常状態における電子状態の変化と、ネマティック状態における多極子秩序変数を調べ、その微視的性質と起源について考察した[4]。オンサイト・クーロン相互作用Uの増加に伴い、Γ点のinnerホール面が消失すると、基底状態はD2d 点群対称性をもつ各Feサイトで、E表現の反強的な十六極子とB2 表現の強的な多極子を持つ多極子状態が得られることがわかった。特にE 表現の多極子の発現はdxy軌道とdxz, dyz軌道の混成と結びついており、ネマティック秩序において一般に重要と考えられる。講演では、電子状態の変化の妥当性について議論するとともに、今後の展望についても報告する予定である。
[1] T. Shibauchi, T. Hanaguri, and Y. Matsuda, J. Phys. Soc. Jpn. 89, 102002 (2020).
[2] X. Long, S. Zhang, F. Wang, and Z. Liu, npj Quantm Mater. 5, 50 (2020).
[3] M. Yi et al., Phys. Rev. X 9, 041049 (2019).
[4] T. Yamada and T. Tohyama, arXiv:2107.07244.

2)13:20~13:40
講演者:古谷峻介(茨城大学大学院理工学研究科)
タイトル: 静電場による等方的・異方的スピン間相互作用の制御の微視的理論
アブストラクト:
 磁性体中の複数の相互作用の競合や協調の結果生じる新奇な相が現在活発に研究されている。複数の等方的超交換相互作用の競合の結果生じるスピンネマティック相や、等方的相互作用と異方的相互作用の結果生じる磁気スキルミオンや磁気ヘッジホッグ、カイラルソリトンなどのトポロジカルスピンテクスチャなどがその好例である。もしスピン間相互作用の競合・協調関係を外部から制御できるならば、新奇相探索や工学的な応用に有意義であると期待できる。
 本講演ではMott絶縁体における等方的および異方的なスピン間相互作用を、外部から印加する静電場を用いて制御する機構について、微視的模型に基づき議論する。講演の前半では、正方格子に印加された面直電場が等方的超交換相互作用を変調し、正方格子模型をフラストレートした三角格子模型へ変化させていく様子や、電場の誘起するスピンのダイマー化を議論する [1]。講演の後半ではスピン軌道相互作用の存在する場合を扱い、電場によって磁気異方性が制御できることを示す。具体例として、Kitaev-Heisenberg模型へのDzyaloshinskii-Moriya相互作用や反転対称な非対角異方性の誘起や、正方格子強磁性体への磁気スキルミオン格子の誘起を議論する [2]。
[1] S. C. Furuya, K. Takasan, and M. Sato, Phys. Rev. Research 3, 033066 (2021).
[2] S. C. Furuya and M. Sato, in preparation.

3)13:40~14:00
講演者:Rico POHLE (東京大学大学院工学系研究科)
タイトル:Dynamics of quantum liquid crystals from numerical simulations
アブストラクト:
 Spin-1 magnets allow for dipolar and quadrupolar moments on a single site, providing novel properties as seen in spin nematic phases [1], Fe-based superconductors [2] and cold atom systems [3]. Unfortunately, such unconventional phases can be found hard to probe experimentally, and therefore require new theoretical tools to describe and interpret their ground state and excitation properties.
 In this talk, I will present a new Monte Carlo and Molecular Dynamics scheme, which can be used to study thermodynamic and dynamic properties of spin-1 magnets [4]. We benchmark our numerical implementation by studying the ferroquadrupolar phase of the spin-1 bilinear-biquadratic (BBQ) Hamiltonian on the triangular lattice, and find a perfect match to analytical flavour-wave theory and low-temperature expansion. The investigation of thermodynamic properties of this model revealed a topological phase transition, originated in the proliferation of vortex pairs, whose annihilation dynamics can be directly accessed and visualized. Furthermore, our method can also be applied to models with anisotropic spin interactions, as I shall briefly present for the spin-1 Kitaev-BBQ model on the honeycomb lattice.
[1] H. Tsunetsugu and M. Arikawa, J. Phys. Soc. Jpn 75, 083701 (2006)
[2] R. M. Fernandes, A. V. Chubukov, and J. Schmalian, Nature Physics 10, 97 EP (2014)
[3] E. Demler and F. Zhou, Phys. Rev. Lett. 88, 163001 (2002)
[4] K. Remund, R. Pohle, Y. Akagi, J Romhányi, N. Shannon (in preparation)

4)14:00~14:20 
講演者:劉子揚(名古屋大学大学院理学研究科)
タイトル:励起子絶縁体候補物質Ta2NiSe577Se-NMR, 181Ta-NQRによる電子状態の研究
アブストラクト:
 伝導バンドの電子と価電子バンドのホールが結合した励起子、その束縛エネルギーが半導体のバンドギャップよりも大きい場合、励起子凝縮が起こり、基底状態になると期待される。これは励起子絶縁体相と呼ばれ、その候補物質Ta2NiSe5は、Ts=328 Kより高温で狭いバンドギャップを持つ半導体的電気抵抗率を示すのに対して、Tsを境に高温の斜方晶構造から低温で単斜晶構造に変化し、電気抵抗率の急激な増大、磁化率の抑制が現れ、非磁性絶縁体へ転移する[1]。角度分解光電子分光に低温で観測された価電子バンドトップの平坦化が、Ta-5d軌道の伝導バンドとSe-4p, Ni-3d軌道の価電子バンドの混成による励起子形成として理解出来ることが理論的に示された[2, 3]。励起子凝縮形成温度となるTs直下で励起子凝縮により、スピン反転過程のない超音波吸収係数や核電気四重極緩和率NQR-1/T1にコヒーレンスピークの形成、スピン反転過程を持つ核磁気緩和率NMR-1/T1で急激な減少が現れることが理論的に示された[4]。これはBCS型超伝導と逆である[5]。
 Ta2NiSe5に対して、磁場中で得た77Se核のNMRスペクトル上で測った核スピン格子緩和率Se-1/T1 [6]、零磁場で181Ta核にかかる電場勾配によるNQRスペクトル上で測った核スピン格子緩和率Ta-1/T1を、Tsを通って広い温度範囲で調べた。Se-1/T1とTa-1/T1は、Ts以上の~380 Kより高温で同様な温度変化を示すが、~380 K以下Se-1/T1はexp(-Espin/kBT)型の温度変化を示し(Espin =1770 K) [6]、一方Ta-1/T1Tsに向け降温で発散的に増大し、それ以下で急激な減少を示した。SeとTaのサイトの明瞭な違いが現れる温度域(290 K~380 K)で、181Ta-NQRスペクトル幅が変化し、~380 K以下Taサイトの電荷分布が増大していることがわかった。Ta-1/T1が電荷ゆらぎまたは格子ゆらぎに応答しており、 これにより磁気ゆらぎをモニターするSe-1/T1との違いが説明できる。本講演では、181Ta-NQRスペクトル、Ta-1/T1の振舞いを詳細に調べた結果を基に、77Se-NMRとの比較から、Ta2NiSe5の静的、動的電荷状態の変化について議論する。
[1] F. J. Di Salvo et al., J. Less Common Metals 116, 51 (1986).
[2] Y. Wakisaka et al., Phys. Rev. Lett. 103, 026402 (2009).
[3] T. Kaneko et al., Phys. Rev. B 87, 035121 (2013).
[4] K. Sugimoto et al., Phys. Rev. B 93, 041105(R) (2016).
[5] J. Bardeen, L. N. Cooper, and J. R. Schrieffer, Phys. Rev. 108, 1175 (1957).
[6] S. Li et al., Phys. Rev. B 97, 165127 (2018).

5)14:20~14:40
講演者:秋葉俊宏(北海道大学大学院工学研究院)
タイトル: 銅酸化物高温超伝導体Bi2201の光誘起非平衡準粒子ダイナミクス
アブストラクト:
 銅酸化物高温超伝導体に特徴的に現れる擬ギャップは、超伝導発現機構解明の鍵として長年研究されており、電荷秩序やストライプ秩序、ネマティック秩序など多彩な電荷液晶が観測されることでも知られる。我々が探索手法として用いるフェムト秒光パルスを用いた時間分解分光は、瞬時的に光励起された非平衡準粒子緩和を通して、超伝導や擬ギャップ特性をダイナミクスの観点から捉えることができる。本研究では銅酸化物高温超伝導体の中でも低いTc(20K~35K)をもつBi2201に着目する。超伝導ギャップエネルギーが小さいため、超伝導と擬ギャップの各準粒子応答に大きな時間差が生じ、時間域解析を通して両者の特性を比較できる。従来研究されてきたBi2212と比較すると、超伝導応答の立ち上がり時間、および緩和時間が共に数倍から1桁以上長い数〜数十psのオーダーに到達する。他方、擬ギャップ応答はBi2212と同程度の1ps以下の高速応答が観測される。これらの特徴を踏まえ、本研究では光誘起相転移を利用した非平衡準粒子ダイナミクス観測を実現した。相破壊パルス光を使って過渡的な常伝導状態(光誘起相転移)を形成し、超伝導と擬ギャップの準粒子応答の変化から両者の秩序形成過程および相関関係を考察する。

6)14:40~15:00 
講演者:呉紘丞 (東北大学多元物質科学研究所)
タイトル: Synthesis, structural, and magnetic characterization of the monoclinic Cu2OSeO3
アブストラクト:
 Ever since the discovery of magnetic skyrmion in the insulating quantum spin system, Cu2OSeO3 ambient phase (Cu2OSeO3-AP) has attracted special attention with the intensive research activity to date. In our previous study on Cu2OSeO3 [1], we found that the temperature region of the skyrmion phase can be greatly enhanced under physical pressure. Also, Cu2OSeO3 undergoes a series of structural transitions from the cubic P213, through orthorhombic P212121 and monoclinic P21, and finally to the triclinic phase P1, clearly indicating substantial tunability of the spin geometry in Cu2OSeO3. New synthesis route, for example the chemical doping or high-pressure synthesis, may be favorable to stabilize the high-pressure phase in this highly topical compound at ambient pressure for exploring the extraordinary physical properties.
 A new Cu2OSeO3 high-pressure phase (Cu2OSeO3-HP) with the distorted kagome lattice was successfully synthesized through the high-pressure synthesis. The preliminary Rietveld refinement using X-ray diffraction pattern suggests that the tetrahedral Cu2+ clusters (similar to Cu2OSeO3-AP) exist in Cu2OSeO3-HP, but with three symmetry inequivalent sites. Magnetization measurement in Cu2OSeO3-HP exhibits the possible ferrimagnetic ordering (Tc) transition near 29 K. Neutron powder diffraction measurement is in progress to probe the associated magnetic structure and the order parameter in Cu2OSeO3-HP. A detailed comparison between Cu2OSeO3-AP (with three up (Cu (II)) and one down (Cu (I)) spin configuration) and Cu2OSeO3-HP will be discussed in this talk.
[1] L. Z. Deng et al., PNAS 117, 8783 (2020).

担当:和達大樹(兵庫県立大学)、田財里奈(名古屋大学)