QLC若手コロキウム

第3回QLC若手コロキウム

日時:2021年6月1日(火)13:30~15:00
講演者: 第2回QLC若手研究奨励賞、受賞者3名
奥村駿(東大物性研、受賞当時、東大工)、佐藤樹(東大新領域)、島本雄介(大阪府立大工)

※Zoomによるオンライン開催
※開催当日正午(日本時間)までに登録用サイトへ登録した方に、開催当日に会議IDをお送りします。

1) 13:30-14:00
講演者:奥村駿(東京大学物性研究所)
タイトル:金属磁性体に現れる磁気ヘッジホッグ格子の理論研究
アブストラクト:
 近年、磁気ヘッジホッグ格子と呼ばれる3次元的なトポロジカル磁気構造が機能的な材料設計の観点から注目を集めている。磁気ヘッジホッグ格子は、実空間上の点欠陥である磁気ヘッジホッグと反磁気ヘッジホッグが周期的に並んだ構造であり、それぞれが生み出す創発磁場が磁気モノポール・反磁気モノポールとして振る舞うという特徴を持つ。実験的には、結晶構造が空間反転対称性を破るMnSi1-xGexや反転対称なSrFeO3といった金属磁性体において観測されており、それぞれトポロジカルホール効果などの量子輸送現象を示すことが知られている[1]。一方で、磁気ヘッジホッグ格子に関する理論研究はあまり進んでおらず、その安定性やトポロジカルな性質について未解明な点が多く残されている。
 本セミナーでは、金属磁性体中の磁気ヘッジホッグ格子に関する最近の研究成果について紹介する。我々は、遍歴電子の性質を取り入れた長距離的な多重スピン間相互作用によって、磁気ヘッジホッグ格子が基底状態として安定しうることを初めて示した。空間反転対称性が破れた系においては、磁気モノポールと反磁気モノポールの対消滅によるトポロジカル転移が創発磁場に大きな影響を与えることを見出した[2]。また、最近の研究では、空間反転対称性をもつ系においても磁気ヘッジホッグ格子が現れることを明らかにした。当日は、現在進行中の共同研究や今後の展望についても触れながら議論する予定である。
[1] Y. Fujishiro et al., Appl. Phys. Lett. 116, 090501 (2020).
[2] S. Okumura et al., Phys. Rev. B 101, 144416 (2020).

2)14:00~14:30
講演者:佐藤樹(東京大学大学院新領域創成科学研究科)
タイトル:磁気キラル効果による反強磁性磁区・磁壁駆動の直接観測
アブストラクト:
 磁区や磁壁といったミクロな磁気構造の研究において、実空間観察は強力な手法の1つである。磁区を可視化するには、異なる磁区を区別できる光学応答の活用が必要である。例えば、強磁性磁区のイメージングには磁気円二色性が活用され、反強磁性体の90度磁区は線二色性を活用して可視化されうる。
 コロキウムでは、磁気キラル効果を用いた容易軸型反強磁性体MnTiO3の磁区イメージングについて紹介する。空間反転対称性と時間反転対称性の同時に破れた物質中を無偏光が伝播するとき、磁気キラル二色性は光の電場成分と磁場成分の干渉に由来する吸収係数の摂動項として現れる。磁気キラル二色性は時間反転操作に対してその符号を変えるため、180度磁区のイメージングに活用できる。磁気キラル二色性はこれまで磁化のある系において研究されてきたが、最近我々は磁化のない反強磁性体における磁気キラル二色性を報告した。本研究ではこれを活用し、反強磁性体MnTiO3の磁区イメージングを行った。磁気キラル二色性を用いると露光時間が従来手法よりも短い1秒以下で済むことを活用し、電場・磁場による磁壁駆動を観察し、熱揺らぎによる磁壁移動度の増大を確認した。

3)14:30~15:00
講演者:島本雄介 (大阪府立大学大学院工学研究科)
タイトル:キラルスピンソリトン格子の磁気共鳴
アブストラクト:
 キラル磁性体CrNb3S6では、キラルな結晶構造に起因するDyzaloshinskii‐Moriya(DM)相互作用が働く。Heisenberg交換相互作用およびZeeman効果との競合により、スピンが片巻きのらせん状にねじれた部位(ソリトン)が周期的に整列したキラルソリトン格子(CSL)が形成される。CSLの周期はらせん軸に垂直な静磁場に応じて変化する[1]。その形成過程は、カイラルサインゴルドン模型で記述され、楕円関数を用いて解析的に解くことができる。
 本講演では、CSLの集団運動である「CSLフォノン」に焦点をあてる。磁気超格子の格子振動に該当するCSLフォノンでは、マグノンバンド内にCSL周期に応じたブルリアンゾーンが形成されることが期待される[2]。興味深いことに、磁場中でCSL周期が変わるとブルリアンゾーンが変化するため励起モードが変調されうる。しかしながら、これまで実験においてCSLフォノンは観測されていない。
 マイクロ波分光法を用いて、CrNb3S6結晶の磁気共鳴特性を調べた。CSL相において臨界磁場に向かって収束する4本の共鳴モードを観測した。これらの高次モードはCSLフォノンモードに対応していると考えられる。さらに、理論モデル式を用いたフィッティングからDM相互作用の大きさを見積もった。当日は、磁気共鳴実験から得られた知見をもとにCSLの集団運動について議論する。
[1] Y. Togawa et al., Phys. Rev. Lett. 108, 107202 (2012).
[2] J. Kishine et al., Phys. Rev. B 79, 220405(R) (2009).

担当:和達大樹(兵庫県立大学)