2/15(火)第6回QLC若手コロキウムをオンライン開催

6回QLC若手コロキウム

日時:2022年2月15日(火) 13:30~14:30
講演者:岡村嘉大 (東大)、鈴木博人 (東北大)、計2名

※Zoomによるオンライン開催
登録用サイトへ登録した方に、開催当日までに会議IDをお送りします。

1)13:30~14:00
講演者:岡村嘉大(東京大学大学院工学系研究科)
タイトル:トポロジカル磁性体における磁気光学分光
アブストラクト:
 近年、トポロジカル絶縁体やワイル半金属に代表されるトポロジカルな電子構造を持つ物質系が次々と提案・開発され、大きな注目を集めている。これらの新たな電子相では、特異な磁気抵抗効果や巨大な異常ホール効果を示すことがわかってきている。一方で、その他の電磁気応答に関しては、実験的にはほとんど研究がなされておらず、その学理の構築には程遠い状況にある。我々はトポロジカル電子相に普遍的な電磁気応答を開拓すべく、磁気光学効果に着目し研究を行っている。磁気光学効果は、異常ホール効果の光学的拡張とみなすことができ、特にトポロジカルな電子構造に対しては共鳴的な増大が理論的に期待できる。本セミナーでは、磁性ワイル半金属Co3Sn2S2において行った磁気光学効果の研究について主に紹介する[2]。この物質ではノーダルリングやワイル点といったトポロジカルな電子構造がフェルミ準位近傍に存在している。それに対応して磁気光学スペクトルには0.1eV程度の低エネルギー領域に巨大な共鳴構造が観測された。第一原理計算とも比較することで、この共鳴がトポロジカルな電子構造における光学遷移に由来していることがわかった。また最近では、スキルミオンのようなトポロジカルな磁気構造によっても磁気光学スペクトルに急峻な共鳴構造が引き起こされることがわかってきた[3]。セミナーの後半においては、この結果についても触れ、固体中のトポロジカルなオブジェクトが示す電磁気応答について議論したい。

[1] N. P. Armitage, et al. Rev. Mod. Phys. 90, 015001 (2018).
[2] Y. Okamura et al., Nat. Commun. 11, 4619 (2020).
[3] Y. Hayashi*, Y. Okamura* et al., Nat. Commun. 12, 5974 (2021) (*equal contribution).

2)14:00~14:30
講演者:鈴木博人 (東北大学学際科学フロンティア研究所)
タイトル:共鳴非弾性 X 線散乱による Kitaev 磁性体 a-RuCl3 の擬スピンハミルトニアンの決定
アブストラクト:
 a-RuCl3 は Kitaev スピン液体実現の最有力候補の1つであると同時に、2次元ファンデルワールス磁性体の典型例となっている。a-RuCl3 におけるスピンの分数化の兆候が様々な 実験から示唆されている一方、a-RuCl3 は低温においてジグザグ型反強磁性秩序を示す。これは a-RuCl3 の擬スピンハミルトニアンが Kitaev 項のみならずハイゼンベルグ相互作用や非対角項などを含むことに よる。種々の実験結果の理解や Kitaev スピン液体の安定的な実現のためには擬スピンハミルトニアンを正確に決定する必要があるが、パラメータの値や符号については多くの異なる主張が乱立していた。
 本研究では新規に開発されたTender X 線領域の共鳴非弾性 X 線散乱 (RIXS) 装置を用い、 a-RuCl3 単結晶の Ru L3  吸収端 (2.84 keV) における RIXS 測定を行った [1]。反強磁性転移温度 (7 K) 上の Paramagnetic 相 T = 20 K において、Jeff = 1/2 散乱強度の運動量依存性は Γ 点 [q = (0, 0)] 近傍にブロードな最大を示す一方、ジグザグ反強磁性秩序のブラッグ点 [q = (0.5, 0)] に極大は観測されなかった。これはジグザグ秩序が拮抗する強磁性相関により容易に不安定化することを示唆している。拡張 Kitaev-Heisenberg 模型に対する RIXS 強度の理論計算との詳細な比較から、擬スピンハミルトニアンのパラメータを決定した。
 RIXSは微小単結晶や薄膜試料にも適用可能であることから、現在拡大を続けるKitaev磁性体の選別に効果的に利用できることが期待される。

[1] H. Suzuki, H. Liu, J. Bertinshaw, K. Ueda, H. Kim, S. Laha, D. Weber, Z. Yang, L. Wang, H. Takahashi, K. Fursich, M. Minola, B. V. Lotsch, B. J. Kim, H. Yavas, M. Daghofer, J. Chaloupka, G. Khaliullin, H. Gretarsson, and B. Keimer, Nat. Commun. 12, 4512 (2021).

 担当:和達大樹(兵庫県立大学)