11/25(木)第5回QLC若手コロキウムをオンライン開催

5回QLC若手コロキウム
「古典的液晶と量子液晶の関係探索」

日時:2021年11月25日(木) 16:00~18:00
講演者:赤城裕(東大)、川﨑猛史(名大)、吉田浩之(阪大)、内田幸明(阪大)、計4名

※Zoomによるオンライン開催
登録用サイトへ登録した方に、開催当日までに会議IDをお送りします。

1)16:00~16:30
講演者:赤城裕(東京大学大学院理学系研究科)
タイトル:量子スピン液晶におけるトポロジカル励起
アブストラクト:
 素粒子・物性にまたがる普遍的な概念の一つが自発的対称性の破れであり、多くの現象が対称性の破れにより理解できる。また、連続的対称性の破れた相の低温での性質は、南部-Goldstoneモードとトポロジカル励起により支配される。近年では、スキルミオンと呼ばれるトポロジカル励起を基本単位としたスキルミオン格子が実験と理論の両面から精力的に研究されている。磁気スキルミオンは、トポロジカル励起の一種であるため擾乱に強く、強磁性磁壁の駆動に必要な電流密度の1000分の1程度で駆動できるため、高密度・低消費電力デバイスへの応用につながると期待されている。
 最近、量子液晶という統一概念が本新学術から提案された。その代表格の一つが量子スピン液晶である。我々は、この相が実現する最も基本的な模型であるS=1のbilinear biquadratic模型を詳細に調べ、新規トポロジカル励起を見出した[1]。この新種ソリトンはSU(3)点で現れ、トポロジカル電荷が異なるソリトン同士には反発的相互作用が生じる。通常解析的に求められるソリトン同士は相互作用することは無いが、この解は解析的には求まらず、数値解として見出した。古典的液晶との最大の違いは、液晶の構成要素である棒(円盤)状分子は形を基本的に変えないが、量子スピン液晶の構成要素であるスピンは磁気双極子⇄磁気四重極子と大きく形を変える点である。
 量子スピン液晶に関連して、素粒子分野との学際的研究として、トポロジカル励起に関する以下の2つの成果を得た。1つ目は、同模型の連続極限において一般化Dzyaloshinskii-守谷(DM)相互作用項を導入することで、安定な孤立スピン液晶スキルミオン解を解析的・数値的に構成した[2]。この一般化DM型相互作用は磁気四重極子に“ひねり”を加えるような相互作用となっているため、スピン液晶スキルミオンという特殊なスピン構造が安定化する。2つ目は、同模型の連続極限においてポテンシャル項等を加えることで、スピン液晶分数スキルミオンを数値的に構成した[3]。これは物性でよく知られた磁気スキルミオンの半分であるメロンの一般化であり、各々のスピン液晶分数スキルミオンはトポロジカルチャージ1/3を持つ。この成果も、整数値を返すホモトピー論だけでは予想ができない、数値計算をすることで初めて分かる微視的構造である。本講演では、古典的液晶と量子液晶の関係性に関して議論を行い、上記について時間が許す限り紹介する。
[1] H. T. Ueda, Y. Akagi, and N. Shannon, Phys. Rev. A 93, 021606(R) (2016).
[2] Y. Akagi, Y. Amari, N. Sawado, and Y. Shnir, Phys. Rev. D 103, 065008 (2021).
[3] Y. Akagi, Y. Amari, S. B. Gudnason, M. Nitta, and Y. Shnir, Preprint arXiv:2107.13777

2)16:30~17:00 
講演者:川﨑猛史(名古屋大学大学院理学研究科)
タイトル: キラル古典異方粒子系におけるトポロジカル相の制御
アブストラクト:
 キラル磁性体やコレステリック液晶など,キラルな凝縮系物質においては,ヘリカル相やスキルミオン相をはじめとするトポロジカル相への相転移が広く観測される[1,2].トポロジカル相転移を連続体モデルで記述する際,量子的な磁性体におけるジャロシンスキー‐守谷相互作用と,古典液晶のフランク弾性におけるツイスト相互作用は極めて類似した数理構造をとる.この普遍性を念頭に置くと,分子性結晶やコロイド結晶など,古典的なソフトマター系においても,キラルな相互作用を有する系であれば,同様の相転移が広く観測可能であると考えられる.しかし,これらの相転移を明確に示した報告は,コレステリック液晶系[2]を除いて存在しない.また,一様な秩序を有する結晶相では結晶弾性が重要な役割を果たすことが認識されているが,非一様なトポロジカル相における弾性場の役割は未解明である.
 以上の問題を明らかにするために,本研究では,古典粒子であるキラルな高分子やコロイド分子を表す新規モデルを構築し,当該モデルに関する分子動力学計算を幅広い材料パラメータに対して行なった.その結果,分子の立体異方性と分子間に生じる捻れとの競合から弾性場が出現することが,らせん構造,半スキルミオン構造などのトポロジカル相を制御する鍵であることを明らかにした.このことは,キラルな分子・コロイド結晶を用いてトポロジカル相を制御するための基本的な物理原理を得る際,創発的な弾性場を制御することが極めて重要であることを示唆している.
 本講演では主に以上の内容について議論する予定である.また,本研究は東京大学生産技術研究所の高江恭平氏との共同研究[3]である.
[1] N. Nagaosa and Y. Tokura, Topological Properties and Dynamics of Magnetic Skyrmions, Nature Nanotech. 8, 899 (2013).
[2] J. Fukuda and S. Žumer, Quasi-Two-Dimensional Skyrmion Lattices in a Chiral Nematic Liquid Crystal, Nature Commun. 2, 246 (2011).
[3] K. Takae and T. Kawasaki, “Emergent elasticity linked to topological phase transitions controlled via molecular chirality and steric anisotropy”, arXiv:2107.14709.

3)17:00~17:30 
講演者:吉田浩之 (大阪大学大学院工学研究科)
タイトル:有機液晶素子におけるソリトン構造の制御
アブストラクト:
 有機分子からなる液晶の配向は頭尾の区別の無いダイレクタベクトルによって記述される。液晶の配向場には点、線や環状のソリトンが存在し得、制御および観察が比較的容易であることから、他の物質系では見られない複雑な欠陥構造の実空間評価や、それらを利用した機能創出を目指した研究が行われている。
 本講演では、液晶を保持するガラス基板の界面配向を通してソリトンを制御する発表者らの取り組みについて紹介する。液晶は通常、数ミクロンの空隙を持たせて対向させたガラスサンドイッチセル内に封入されるが、ガラス表面で分子の配向する配向容易軸の分布を通して、生成される欠陥に対する自由エネルギー地形を設計できる。このことと、液晶配向の外場応答性を利用することで、複数の安定状態間を切り替えることなども可能となる。講演ではネマティック液晶において自然に観察されるディスククリネーションやウォールに加え、点欠陥などのより高エネルギーの構造も安定化できることを紹介する。

4)17:30~18:00 
講演者:内田幸明(大阪大学大学院基礎工学研究科)
タイトル:液晶中の分子間相互作用
アブストラクト:
 液晶中では集合した分子が絶えず互いに衝突しながら配向を揃えている。分子間相互作用に基づいて液晶の振る舞いを理解する平均場理論が提案されており、分子間相互作用として分散力や立体斥力が想定されている。物質の対称性に依存する物性を原子レベルから理解するには、分子の微細構造と凝縮相の対称性の対応関係を知る必要がある。液晶を構成する分子構造の対称性は、通常、液晶相の対称性よりも低いので、液晶の物性を原子レベルから理解するためには、この差を埋める必要がある。また、液晶相では分子形状が絶えず変化しており、結晶のように分子の微細構造を原子レベルで特定することはできない。
 我々は、非導電性のニトロキシドラジカルが結晶相から液晶相への相転移において、異常な磁化率の増加を示すことを発見した [1,2]。その後、ニトロキシドラジカルの磁化率が磁気相互作用の不均一性と分子運動に依存することが実験的に確認された [2,3] 。本講演では、スピン拡散を組み込むことで上記の磁気特性を理解する新しいモデルを紹介する [4]。このモデルでは、液晶相や液相などの流体中では、分子がランダムに次々と他の分子と接触することでスピン拡散が起こると考える。当日は、このモデルを液晶相における分子形状の変化に応用して分子構造と液晶相の相関を理解する新しい方法に関する、現在進行中の研究についても紹介する。
[1] Y. Uchida, R. Tamura et al., J. Mater. Chem. 18, 2950 (2008).
[2] Y. Uchida, K. Suzuki, R. Tamura et al., J. Am. Chem. Soc. 132, 9746 (2010).
[3] S. Nakagami, Y. Uchida et al., J. Phys. Chem. B 122, 7409 (2018).
[4] Y. Uchida, et al., J. Phys. Chem. B 124, 6175 (2020).

担当:和達大樹(兵庫県立大学)、田財里奈(名古屋大学)、紺谷浩(名古屋大学)