11/16(水)第34回QLCセミナーを東北大学(片平キャンパス)にて開催

第34回QLCセミナー

講師:児玉佑樹 氏(原子力機構中性子センター)
日時:2022年11月16日(水)15:00~16:30
場所:東北大学多元物質科学研究所(片平キャンパス) 西一号館 2階セミナー室
タイトル:スピン1/2三角格子反強磁性体の磁化過程と磁気励起

アブストラクト:
 スピン1/2三角格子反強磁性体(S=1/2 TLAF)とは三角格子上に局在したスピンが隣接スピンと相互作用する系のことである。三角格子は最もシンプルな二次元格子の一つであるが、S=1/2 TLAFは多彩な量子現象を引き起こす。例えば、磁化過程においては量子ゆらぎのcollinear状態安定化によって磁化プラトー現象[1, 2]が、磁気励起においては分散関係が極小値を持つroton-like minimum[3]が確認されている。実験的アプローチから見れば、S=1/2 TLAFには比較的理想的な候補物質がBa3CoSb2O9をはじめとしていくつか見つかっている。S=1/2 TLAFは理論・実験の比較がしやすく量子磁性体の解析手法を洗練するのによい研究対象であるといえる。本発表では、私のこれまでの研究を中心に、S=1/2 TLAFの候補物質・磁化過程・磁気励起について様々な理論と比較しながら検討を行う。
 本発表では主にBa3CoSb2O9、Ba2CoTeO6、Ba2La2CoTe2O12について紹介する。これらの物質はNeel温度以下でS=1/2 TLAFの基底状態の特徴として知られる120度構造の磁気秩序状態を示し、磁化過程には幅広い磁化プラトーが確認されている[2,4,5]。Ba3CoSb2O9はS=1/2 TLAFの最も一般的な候補物質として知られており、これまで多くの実験が行われてきた。今回の発表では私が最近行った常磁性相における非弾性中性子散乱実験の結果を含めて報告を行う。Ba2CoTeO6はS=1/2 TLAF層とスピン1/2ハニカム格子Ising型反強磁性層が交互に積層し、それらが独立に振舞うユニークな特徴を持つ[4]。Ba2CoTeO6の磁気励起にはBa3CoSb2O9の磁気励起とほとんど同じスペクトルが確認され、これらはS=1/2 TLAFに共通した振る舞いであることが示唆される[6]。Ba2La2CoTe2O12は強い容易面型の異方性を持ったS=1/2 TLAFであり、S=1/2 TLAFにおける異方性の効果を検証することのできる数少ない物質である[5]。

[1] A. V. Chubukov and D. I. Golosov, J. Phys.: Condens. Matter 3, 69 (1991).
[2] Y. Shirata et al., Phys. Rev. Lett. 108, 057205 (2012).
[3] J. Ma et al., Phys. Rev. Lett. 116, 087201 (2016).
[4] P. Chanlert et al., Phys. Rev. B 93, 094420 (2016).
[5] Y. Kojima et al., Phys. Rev. B 98, 174406 (2018).
[6] Y. Kojima, et al., Phys. Rev. B 105, L020408 (2022).

担当:佐藤卓(東北大)