第2回QLC若手コロキウム
日時:2021年4月5日(月)13:00~14:40
※Zoomによるオンライン開催
※開催当日正午(日本時間)までに登録用サイトへ登録した方に、開催当日に会議IDをお送りします。
1) 13:00-13:20
講演者:清水宏太郎 (東京大学 大学院工学系研究科)
タイトル: 多重Qトポロジカル磁気テクスチャにおけるフェーゾン
アブストラクト:
近年、スキルミオン結晶やヘッジホッグ格子といったトポロジカル磁気構造が規則的に配列した多重Q磁気秩序が注目を集めている。これらは近似的にスピンの波の重ね合わせとしてあらわされるので、波の位相の変化に応じて磁気構造やその対称性、トポロジカルな性質が変化する [1,2]。 このように、波の位相は多重Q磁気秩序における重要な自由度の一つであるが、その効果は系統的に調べられていない。
本研究では、スキルミオン結晶に代表される多重Q磁気秩序に対して、螺旋あるいは正弦波の重ね合わせにおいて位相の変化がもたらす磁気テクスチャやトポロジカルな性質の変化を系統的に調べた。その結果、位相和や磁化を変化させることによって、スキルミオン数が -2, -1, +1, +2を持つスキルミオン結晶が現れることを明らかにした。また、位相自由度を新たな次元ととらえ、物理空間よりもひとつ次元の高いハイパー空間でのトポロジカル欠陥の構造を調べることで、これらの結果を系統的に理解できることを 見出した。このことは、多重Q磁気秩序における位相自由度が準結晶などで論じられているフェーゾンと類似した自由度であることを示している。
[1] T. Kurumaji et al., Science 365, 914 (2019).
[2] S. Hayami, T. Okubo, and Y. Motome, preprint (arXiv:2005.03168).
2)13:20~13:40
講演者:高橋龍之介 (兵庫県立大学 大学院理学研究科)
タイトル: Synthesis and superconducting properties of EuSn2As2
アブストラクト:
EuSn2As2はEuがSnAs層に挟まれた二次元層状構造を持つ。二次元層状物質はその構成元素の種類や圧力、温度により物性制御が可能であり、近年注目されている[1, 2]。また、ネマティック超伝導性の可能性が示唆されており、本研究では、この物質のSn-Flux法による合成法を確立し、合成した単結晶EuSn2As2に対して物性探索を行った。まず、0.5 mTの面内磁場下において、3.7 K付近でマイスナー効果を観測したため、超伝導の可能性が示された。しかし、2 Kでの磁場依存磁化の測定で観測した飽和磁化が、理論値7 μB/Eu2+ (J = 7/2) の65%程度である4.6 μBとなった。我々は超伝導とEuの化学状態の関連性も加味し、X線吸収微細構造(XAFS)測定を行うことで、系に存在するEuの直接的な観測を試みた。結果Eu3+のピークスペクトルは観測されず、Eu2+のみが観測された。このような結果を踏まえ、当日は、超伝導やEuの化学状態について議論したい。
[1] H. Li, et al., Phys. Rev. X 9, 041039 (2019).
[2] S. Sakuragi, et al., arXiv:2001.07991.
3)13:40~14:00
講演者:藤原秀行 (東北大学 大学院理学研究科)
タイトル:Kitaev スピン液体候補物質 RuX3 (X = Cl, Br, I) の配位子置換効果
アブストラクト:
ルテニウムハロゲン化物RuX3 (X = Cl, Br, I) には、 α型 (ハニカム構造)とβ型(直鎖状構造)の2種類の結晶構造が存在することが知られている。X = Clの場合には、両構造の多形が存在し、特にRuがハニカム格子を形成するα-RuCl3は近年、Kitaevスピン液体の候補物質として盛んに研究が行われている。一方、 X =Br, Iの場合にはβ構造のみが知られており、α-RuCl3の配位子置換効果を調べることは困難であった。しかし、我々はごく最近、高圧合成法により、ハニカム格子を持つα型の結晶構造(空間群R-3)を持つRuBr3およびRuI3が合成できることを明らかにした [1]。そこで今回、我々は固溶体のRu(Cl1-xBrx)3 (x = 0 – 1)と、Ru(Br1-yIy)3 (y = 0 – 1) の合成と、配位子サイトの変化に伴う基礎的な物理量の変化を調べることを目的として実験を行った。
[1] Y. Imai et al., JPS 2020 Autumn Meeting, The Physical Society of Japan, 10aH2-7.
4)14:00~14:20
講演者:堀惣介 (大阪大学 大学院理学研究科)
タイトル:二層膜CoFeB/SrIrO3におけるスピンホール磁気抵抗効果
アブストラクト:
5d電子系イリジウム酸化物は、強いスピン-軌道相互作用を持つ5d電子のみが電気伝導を支配する特異な電子構造を持つ。近年、その特異な電子構造がスピン流生成に重要であることが明らかになり、新奇なスピントロニクス材料として注目されている。 本研究では、DyScO3基板上にエピタキシャル成長した非磁性 半金属 SrIrO3と強磁性金属 CoFeBとの界面に着目し、CoFeB/SrIrO3二層膜のホールバー型デバイスを作製した。界面におけるスピン流と磁化の相互作用に起因する大きなスピンホール磁気抵抗効果(SMR)が観測され、SrIrO3においてスピン流 が高い効率で生成されていることが明らかとなった。
5)14:20~14:40
講演者:SAIKA Bruno Kenichi(東京大学 大学院工学系研究科)
タイトル: Electronic structure of Cr1/3NbSe2 epitaxial thin films studied by angle-resolved photoemission spectroscopy.
アブストラクト:
In the layered transition metal dichalcogenide (TMD), intercalation of 3d-transition metal atoms has been widely studied due to the presence of magnetic phases with varied spin-ordering structures. In recent years, topological features in the electronic structure of intercalated compounds have also been proposed via the symmetry modification promoted by intercalation [1]. A candidate material with the potential to encompass both magnetic and topological features is the Cr-intercalated niobium diselenide (CrxNbSe2, x: doping amount). For x = 1/3, intercalated Cr atoms construct a √3×√3 superlattice and the system develops a ferromagnetic ordering [2]. In this work, CrxNbSe2 samples were fabricated via molecular-beam epitaxy (MBE), and the electronic structure of CrxNbSe2 epitaxial thin-films was studied via angle-resolved photoemission spectroscopy (ARPES). By employing soft-X-ray ARPES and vacuum-ultraviolet ARPES, the three-dimensional electronic structure of 10-layer thick Cr1/3NbSe2 samples was investigated. The results indicate that samples as thin as 10 layers exhibit bulk-like electronic structure, and it points towards the active role of Cr-intercalated atoms in the modification of the electronic structure of the material.
[1] T. Inoshita, et. al, Phys. Rev. B 100, 121112 (2019).
[2] N. M. Toporova et. al, J. Alloys Compd. 848, 156534 (2020).
担当:和達大樹(兵庫県立大学)