第12回QLC若手コロキウム
日時:2024年2月19日(月) 13:30~14:30
講演者:第5回QLC若手研究奨励賞、受賞者2名
藤本大仁(ハーバード大学 / 東京大学)
高橋龍之介(兵庫県立大学)
※Zoomによるオンライン開催
※登録用サイトへ登録した方に、開催当日までに会議IDをお送りします。
1)13:30~14:00
講演者:藤本大仁 (ハーバード大学 / 東京大学)
タイトル:第一ランダウ準位と対応する平坦バンドを有するChern絶縁体
アブストラクト:
Chern絶縁体とは、ゼロ磁場にも関わらず、量子ホール状態と同様にゼロでないChern数を有する格子モデルのことである。そのようなバンドを分数個の電子が占有した強相関状態は、分数Chern絶縁体と呼ばれ、非可換エニオンを実現するプラットフォームとして、現在多くの研究者に注目されている。
ツイスト二層グラフェンやツイスト二層遷移金属カルコゲナイドなどのモアレ材料に現れる平坦バンドは、最低ランダウ準位と同様の量子幾何学的性質を有しているため、分数Chern絶縁体を実現する理想的な材料である。実際、占有率1/3及び2/5の分数量子ホール状態が、ツイスト二層MoTe2[1,2]において磁場ゼロで観測されている。しかしこれらの分数量子ホール状態は、可換エニオンが準粒子であり、ゼロ磁場での非可換エニオンの実現は次の研究のステップとして残されている。
非可換エニオンを準粒子として有するMoore-Read状態[3]は、最低ランダウ準位より高次の第一ランダウ準位を1/2充填した時の強相関状態である。そこで本研究では、第一ランダウ準位の量子幾何学的性質に着目し、それと対応するChern絶縁体を定義した。さらに我々は、周期歪みAB積層グラフェンがこのChern絶縁体を実現する候補物質であることを明らかにした。
[2] Cai, J., Anderson, E., Wang, C. et al., Nature 622, 63–68 (2023).
[3] Moore, G., and N. Read, Nucl. Phys. B360, 362 (1991).
2)14:00-14:30
講演者:高橋龍之介(兵庫県立大学)
タイトル:超短パルスレーザーを用いたNiCo2O4 薄膜における全光型スイッチング
アブストラクト:
光誘起による磁化スイッチングは、磁場などの外場を用いないことから、全光型スイッチング(AOS)と呼ばれ、次世代磁気デバイスへの応用や、光と電子スピンの相互作用を理解する上で非常に重要である。
AOSはGdFeCoやCo/Pt多層膜など多くの合金、磁性多層膜で観測されているが、化学的安定な酸化物磁性体における観測はほとんどない。
今回我々は、室温フェリ磁性を示すNiCo2O4 薄膜におけるAOSと超短パルス照射による非平衡磁気ダイナミクスを観測した。この物質は垂直磁気異方性を示し、30 nmの膜厚でキュリー温度が400 Kを超える。パルス幅200 fsの超短パルスレーザーPHAROSを光源に用いたポンププローブ型時間分解磁気光学Kerr効果顕微鏡を作成し、直線偏光を用いてNiCo2O4 薄膜における0.4 psの超高速消磁を観測した。また、直線偏光の超短パルスレーザー照射後の磁区観察を行うことで、NiCo2O4 薄膜におけるAOSの探索を行ったところ、30 nm膜厚のサンプルでは380 K以上で1 kHz, 1000パルス以上の照射によって、磁化が容易軸方向上下ランダムに存在するマルチドメインの周囲にリング状のAOSを観測した。またリング状のAOSはマルチドメインの領域が大きすぎると消滅することが分かった。これらの観測から、温度上昇によって飽和磁化低下が起こり平衡状態のドメインサイズ拡大により、AOS領域が安定して存在できたと考えられる。また、多数パルス照射が必要であることから、光パルス照射による熱の効果も存在すると考えられる。NiCo2O4 薄膜におけるAOSは飽和磁化や保磁力を調節し、平衡状態の磁区サイズの制御を行うことによって実現可能であり、現在我々は膜厚変化による飽和磁化の制御を行い、室温におけるAOS実現に取り組んでいる。また、光照射による熱効果についても調査するため、パルス周波数依存性についても探索している。
担当:和達大樹(兵庫県立大学)