第1回QLC若手コロキウム
日時:2021年2月26日(金)13:30~14:30 (各講演20分、質疑10分)
講演者:第1回QLC若手研究奨励賞の受賞者、石田浩祐 (東大新領域)、田財里奈 (名大理)
※Zoomによるオンライン開催
※開催当日正午(日本時間)までに登録用サイトへ登録した方に、開催当日に会議IDをお送りします。
1)13:30~14:00
講演者:石田浩祐 (東京大学大学院新領域創成科学研究科)
タイトル: Non-magnetic nematic quantum criticality in FeSe1-xTex
アブストラクト:
電子ネマティック秩序相は銅酸化物高温超伝導体や量子ホール系において当初提案された量子液晶状態の1つであるが、鉄系超伝導体の研究を通して大きく理解が進んだといえる。この秩序相においては、電子系が並進対称性を新たに破ることなく、結晶格子の持つ回転対称性のみを自発的に破る。これまで多くの鉄系超伝導体の電子相図上で電子ネマティック秩序相と超伝導が共存することが確立しており、それらがどのような関係にあるのかについて特に興味がもたれている。中でもFeSeは、他の多くの鉄系超伝導体と異なり反強磁性転移を示さずに電子ネマティック転移を示す特異な性質をもつことから、電子ネマティック秩序相の理解およびその超伝導への影響を調べる上で恰好な物質であると考えられ、精力的に研究がなされている。
今回のセミナーでは、鉄系超伝導体FeSe1-xTexの電子ネマティック秩序に関する研究結果を紹介する。この物質ではSeサイトを同族のTeで置換することにより電子ネマティック転移温度を制御できるが、最近我々のグループでは化学蒸気輸送法を用いることによって、電子ネマティック秩序相が消失するx = 0.50付近までの幅広い組成領域での単結晶合成に成功した。この単結晶に対し系統的な弾性抵抗測定を行ったところ、電子ネマティック転移温度は二次相転移の性質を保ちながら0 Kまで連続的に抑制され、ネマティック量子臨界点がこの系に存在することが明らかとなった。興味深いことに、このネマティック量子臨界点に向かい超伝導転移温度が上昇しており、クーパー対形成機構との関係が示唆される。
2)14:00~14:30
講演者:田財里奈 (名古屋大学大学院理学研究科)
タイトル: 量子ネマティック秩序の発現機構及び熱力学的性質の理論研究
アブストラクト:
近年、強相関電子系における「量子ネマティック相」が様々な実験で報告され注目されている。一方、発現機構や相転移に伴う熱力学的性質は未解決であり実験・理論両面からの進展が望まれる。本講演では初めに、量子ネマティック相の発現を記述するための理論的枠組みとして最近開発した、「構造因子を最適化す るくりこみ群法」と「線形DW方程式」について簡単に説明する[1]。本理論を擬 1次元系のハバード模型に適用した結果、「単位胞内の電荷ループ相」が発現することを見出した。加えて、磁気フラストレーションによる磁気揺らぎの抑制が電荷ループ相の発現に重要な役割を果たすことを見出した。
更に本研究では、Luttinger-Ward理論とGL理論を併せた「量子ネマティック転移 に伴う熱力学関数の理論的計算手法」を構築しその検証を行った[2]。この結果、ネマティック転移に伴う熱力学量の温度・空間依存性がBCS型の超伝導転移とは異なることを説明した。本理論を推し進めることで、ネマティック転移の発現機構~その特徴的な振る舞いまでを、統一の理論で説明できると考えられる。 当日は、具体的な鉄系や銅酸化物での熱力学量の振る舞いについても議論する予定である。
[1] R. Tazai et al., arXiv:2010.16109 (2020), [2] R. Tazai et al., in preparation
担当:和達大樹(兵庫県立大学)