第3回QLCセミナーを茨城大学(水戸キャンパス)にて開催しました。

第3回QLC セミナー

講師:多田 靖啓 氏(東京大学 物性研究所)
日時:2019年8月7日(水) 15:30~ E棟5番講義室
場所:茨城大学水戸キャンパス
タイトル:自発的に試料端に流れるカレントについて
~超流動体・超伝導体や強磁性体でどのように観測されるのか~

電磁気学の教科書を紐解くと、磁化電流と呼ばれる、磁性体の表面を流れる電流である「エッジカレント」が登場する。この電流は等価電流とも呼ばれ、通常の磁性体ではスピンが磁性を担っているということを、電流の言葉で表現している。ところが、磁性体には一般的に軌道自由度もあり、そこでは磁化電流自体が本質的であると考えられている。本セミナーでは、そのような軌道自由度由来のエッジカレントについて、2つの系に注目して議論する。
最初に考えるのはカイラル超流動体・超伝導体と呼ばれる、フェルミオンが自発的に回転しながら粒子対を作っている系である。この系は、粒子対回転のためにエッジカレントが存在し強磁性体と類似性が高い。そのような状態は3Heで実現している他、Sr2RuO4などの候補物質がいくつか知られているが、エッジカレントが実験的に観測されたことはなく、理論的にも論文によっては計算結果が何桁も異なっている。セミナーではこの問題を一から考え直し、これらの系におけるエッジカレントの基本的性質について議論したい[1]。
次に考えるのは強磁性体のエッジカレントであるが、こちらも非常に長い研究の歴史があるにもかかわらず、軌道自由度由来のエッジカレントが観測されたことは一度もない。セミナーでは、ワイル半金属Mn3Snにおける弱い強磁性に対応するエッジカレントの直接観測について議論する[2]。時間があれば、トポロジカル光波と呼ばれるレーザーを用いたエッジカレントの制御の可能性についても紹介したい[3]。

[1] Y. Tada, W. Nie, and M. Oshikawa, PRL 114, 195301 (2015); Y. Tada, PRB 94 214523 (2018); 多田靖啓, 日本物理学会誌 第74巻 第2号 93 (2019).
[2] M. Shimozawa et al., in preparation.
[3] H. Fujita, Y. Tada, and M. Sato, New J. Phys. 21, 073010 (2019).

担当:佐藤正寛(茨城大学)